「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎 ネタバレ感想☆2
ネタバレ感想なので、続きを読まれる場合はご了承ください。
全体の感想「これ、面白いんですか?」
感想を一言で言えば「これ、面白いんですか?」といったところでしょうか。
首相暗殺事件が起こり、その犯人の濡れ衣を着せられた主人公が逃げる、その逃走を描いた作品です。
設定は、なかなか興味を惹かれるものなのですが、キャラクターに魅力が乏しかったり、展開がご都合主義すぎるような気がしました。
例えるなら、FF7でゴールドソーサーでクラウドとヒロインが参加した、素人劇みたいです。
「悪竜王」にヒロインがさらわれる、という緊迫感あるストーリーなのですが、いかんせんクラウドたち役者が棒読み、みたいな。
魅力に乏しい登場人物
全体的に感じるのが、登場人物に善人が揃いすぎている、ということです。
主要人物の青柳雅春、樋口晴子、カズは、揃っていわゆる善人と表現したいようなキャラクターです。
友人の森田森吾は、多少ふざけたような性格ではありますが、キャラクターが濃いとまでは思えません。
それ以外の登場人物、晴子の友人の女性、カズの現在の彼女、青柳が学生時代にバイトしていた花火工場の社長など、脇役も善人が揃っています。
まして、逃走中に出会って逃走を助けてくれた初対面の人たち、連続殺人犯の「キルオ」、服を交換してくれた駐車場の不良の5人、地下道による逃走を手助けしてくれた保土ヶ谷康志や将門君、なども、逃走犯の冤罪を信じて助けてくれるのですから、性質は善良でしょう。
主人公が協力を依頼したテレビ局の矢島も、職業柄うさんくさくてもおかしくはない気がしましたが、応対はかなり誠実でした。
「キルオ」は多少面白いキャラクターでしたが、それ以外は属性(不良、窃盗の計画をしたことがある)でくせは与えられていましたが、主人公に対する言動では善良そのものの人たちでした。
結局、初期に森田森吾とカズが警察と通じていたのを除けば、連続殺人犯を含めて、主人公を裏切った人物はいないのではないでしょうか。
ちなみに、貴志祐介の「新世界より」では、主人公の女性からして、愚痴というか皮肉をよく言うような、癖のあるキャラクターとして描かれていました。
また、ジャンルも変わってしまうかもしれませんが、ハリー・ポッターでは、居候先のダドリー家の家人や、ドラコマルフォイ、スネイプ先生など、魅力的な敵役が多く出てきて、ストーリーに彩りを添えます。
作者は「人間の信頼」を描きたかったのかもしれませんが、悪役というか、読者も一緒になって主人公に感情移入して敵愾心を抱くような敵役がいた方が、人間への信頼が際立ったと思います。
伏線を回収しすぎ
伏線を回収する数が、多すぎるように感じました。
主人公(A)がBと知り合って、ヒロイン(C)とDが協力関係にあり、このBとDが少し前に知り合いになっていた、というような、さすがにそれは偶然にすぎるだろう、という人間関係があります。
大学時代に友人に教わった大外刈りを、主人公とヒロインが使おうとしたり、別の場所で、たまたま同じテレビCMを見て、大学時代のデートの記憶を思い浮かべたりと、仕込みすぎの気がします。
仕込みも、数が少なくて効果的な場面で使えば、読者に感動をもたらすこともあるのでしょうが、あまりに数が多いと、作り物を読んでいる感じがしてきてしまいます(もちろんフィクションではあるのですが)。